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2009年1月 3日 (土)
「先生、私妊娠しちゃいました・・・」3

病院は、有名かつ美しい病院でした。中庭があって、三方を病室が取り巻いていました。残りの広窓に面した面会室で、私は母親と話をしていました。

「そりゃあ、先生、花子はがんとして自分が妊娠しているなんて認めはしませんでした。様子が変なので病院に行くように言っても、私の言うことなんて聞きはしないものですから、私も諦めてほおっていました。ところがある時、自分でここを見つけてきて、さっさと出産の用意を始めたのですよ。」

「今は、どんな状態ですか?」

「子どもはとても元気ですし、花子も授乳のときは、しっかりと抱いています。優しい顔でお乳をあげているのを見ると、不思議ですけどやはり母親なんだなあと思います。」

「良かったですね。」

「でも、大変なんですよ。我侭が通らないでイライラすると看護婦さんたちに怒鳴ったりするのですから。出される食事もぜんぜん取らないで私に外から買ってこさせようとするし、子どもが未熟児なのでもうしばらくは入院させていただきたいのですけど、病院としてはもう花子には退院してほしいと言っています。」

「その辺は変わらないですねえ。」

「でも、お医者様たちもすごく良い人たちで、花子に優しく諭してくれています。だから余計に付け上がるのですよ。」

「ところで婚約者とはどうなっているのですか?」

「それが、一番の問題です。花子はすっかり結婚するつもりです。でも、相手の男は見舞いにも来ません。電話しても出ないのです。だから花子はもうヤキモキして、余計に当り散らすんです。きっと先生にもこのことを相談するでしょう。宜しくお願いします。」

「・・・」

花子ちゃんが来た。素顔の花子ちゃんを初めて見た。シャワーの後らしく髪もぬれていて、ぼーっと歩いてくるけど花子ちゃんだ。  

花子ちゃんは、私を見たもののニコリともせず、ペコリと頭を下げたかと思うと母親に向かって 「お母さん、私の缶コーヒーは?」 と大柄に尋ねました。「ああ、さっきの飲みかけのね。捨てましたよ。」 「ええーっ。まだとっておいてよ。」 「もう、捨てたわよ。」 「じゃあ、買ってきて。先生のも一緒に。」

あきれながらも私が「花子ちゃん、おめでとう。」と言うと、初めて花子ちゃんはニコリとしました。「でも先生、誰もお見舞いに来てくれないんですよ。つまらない。私、お見舞いの人からお花をもらって写真を撮りたいって思っていました。あっ、これがお花ですねえ。わあ、ありがとうございます。」 私たちは中庭に出て、缶コーヒーを買ってきた母親に写真を撮ってもらいました。花子ちゃんは私に肩を抱かれ、花束をしっかりと抱き、ご満悦となりました。

「先生、あの子はすごーく可愛いですよ。後で一緒に行ってくださいねえ。」

「もちろんよ。早く会いたいなあ。」

花子ちゃんがのんびりとコーヒーと菓子パンでお食事をしている間、看護婦さんたちが通りかかり、にらみつける花子ちゃんにチラリと目をやりながら、思い切り私を眺めて去ってゆきます。初めての見舞い客に対して興味を持っているようです。問題児なんだなあと、看護婦さんたちの苦労をリアルに感じました。そういえば、私はずっと前、彼女とはさんざんこんな思いをしてきたものだわ・・・。

食事が終わって、ようやく私はエプロンと帽子をつけて乳児室に入れてもらいました。 

・・・なんて、なんて、可愛い。花子ちゃんの赤ちゃんはまるで花びらみたいに可憐で、美しかった。涙が出てしょうもない私の横で、花子ちゃんが 「可愛いって思ってくれますか? ありがとう。・・・でも、先生、実は私、彼のことで心配なことがあるんです。」 と囁くのでした。

続く。

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